2010年12月06日

モツを食う モツを食う モツを食う

              

梅割_1.jpg




 私は決めている。                              
 この店へ行くにはこの時間以外無い、その時間以外は屁だと思っている。     
 ベストな時間は開店10分前。

 10分前に到着、もう5〜6人の人たちが並んでいる。
 一人の客ばかりのせいか、下を向いている人が多く、会話らしきものもない。
 これからはじまるであろうはげしいバトルへの気負いや決意を顔に出している人もいない。
 静かな闘志とでもいうか、慣れているんだね。
 場数を踏んでる人たちなんだね。


 私はこの時間、この開店までの10分間を幸せに感じる。
 2番目になにを食べるか?
 最初はレバ刺し、いつから不動の一番打者になったのか記憶にないが、
 気がついたら最初はレバー刺しにビール。
 問題は二番打者、塩でコブクロかアブラ、今日はアブラあるかな?、
 しかし軟骨も捨てがたい、なんてことを
 想ってウットリしていると、
 開店だ!


この店の 開店時にくる客には共通している事がある。
 それはモツに対する意気込みが半端ではないという事。
 開店前に静かに下を向いて並んでいる時とは違う迫力
 を注文の品物選びやカウンターに陳列してあるモツの部位を見る目つきに感じる。
 それは獲物をみつめる肉食獣の目。
 いやちがう、届きそうで届かない2センチ先に置かれたお菓子をみつめる子供の目。
 しかし食べ方は部活を終えた高校生のようで、シロたれ10本、
 ナンコツ塩5本、コブクロ塩5本、なんてひとりで注文する人もいる。
 その注文の勢いたるや、全盛時のファイテング原田のラツシュに匹敵するかもというぐらいなのだ。
 カウンターを取り巻いた強者たちが一斉に、シロたれ?本、レバたれ?本、
 ナンコツ?本と注文する光景はすさまじい。

 
 この瞬間を、このレバ刺しを、このナンコツ塩を体がほしがっていたんだ〜、
 と顔が訴えているように見える。
 ググゥッーと前のめり、焼きを待つモツを盛った皿がアッというまに10皿、
 15皿とカウンターに並んでゆく。このままだと何時になったら自分の注文した皿になるんだろう。
 早く焼けないかな〜。


 しかし強者は違う。
 注文したモツが焼き上がるまで強者たちは『刺し』を注文。
 レバ刺し塩3本、コブクロ醤油2本とかでしのぐ。
 レバ刺しを食べながらも目は自分が注文した焼きものから離れることはない、
 まだかな〜、早く食べたいな〜という顔つきで待っている。
  
 
 もうこうなると、モツを「食べる」ではなく体がモツをほしがる、一種の中毒患者のようなもの。
 今日もモツ中毒患者たちが静かに下を向いて並んでいる事だろう。

 モツ中毒患者たちはおいしいモツ店に行かないと見られない。





 
 


 

   
 
posted by 川上哲也 at 07:25| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

赤羽、まるます家


赤羽.まるます家

まるます屋_0032.jpg


 うなぎの焼ける煙と、炭に落ちたタレの焦げるにおいがともに鼻をくすぐる。
そういへば近くを東京と埼玉を分ける荒川が流れている。
川魚料理の店が以前は数多く在ったが、今はもう何軒もない。

 お二階へどうぞ。
なんだ二階か、下で飲みたいけど、空いてない?。
『いまは無理です。』中年の女性はキッパリと言った。

 私は一人で飲む時はカウンターでと決めている。それもU字カウンターがうれしい。
大半の店のカウンター席は店の一階にあり、客の入れ代わりも頻繁で、 次々と私の幸せがやってくる。
なぜ幸せか? 知らないお客の顔をツマミながら飲む酒はおいしく感じるから。
ツマミといってもその人の鼻をかじったりするわけではない。
顔を見て勝手に職業や性格などを想像したりするのが好きなんです。


U字カウンターは 相手の顔を見るのにうってつけで 、目線が合っても不自然でなく、
相手との 距離もちょうどよい。ただ以前、想像が妄想をよび、はては大暴走(大妄想)。
滑稽さにこらえきれなくなり、十五分ほどニヤニヤがとまらず、笑いをかみ殺したつもりがブアオ〜なんて変な声まで出し、
回りの客から気色悪がられた事もあった。
(いまでは修行に修行を積み対応できるようになった。素人の方は十分に御注意を)


とくにこの店は客の顔が個性的で、昔風というかバラエティにとんでいる。
顔に力がある人が多く、私の好きな店なんです。
 この店が朝九時から開店している事も私の興味のひとつだ。
私は朝から酒を飲むのはツライ。
午後2時や3時では体が油断している、その隙に酒をむりやり流し込んでいる感じで好きではない。
好きなの は4時 ぐらいからかな、人よりほんのチョット早く飲めることがうれしい。
朝から酒を飲みに来る人達はどんな人達なんだろう?。
たぶん夜勤明けの人たちなんだろうけど、何時でもグイグイと飲めます!、
二十四時間いつでもOK!という東京や埼玉の鉄の胃袋を持った強者たちが集合しているのかもしれない。
なんか怖いような、ワクワクするようなドキドキ感でドアを開けたのを思いだす。


 はじめて上がった二階では にぎやかに結婚式が行われている、と思われた。
4部屋ほどの小部屋の襖が全部取り払われ、ひとつの大部屋になり、大小十卓ほどのお膳を客がにぎやかに取り囲んでいた。
田舎の自宅で行う結婚式のようで、みなさんにこやかに盃を重ねてうれしそうだ。
タタミに足を投げ出している人もいる。
私はまるで海の近くの親しい親戚の家によばれたような錯覚をおぼえた。
そんな気分にさせられたのも、この店に来る客たちのなつかしさを感じさせる個性的な顔だちが一因してると思う。
今日のつまみは、鯉のあらい、鯵の酢づけ、里芋煮、菜の花からしあえ。
        

 此処の二階席はうれしい。



 
posted by 川上哲也 at 03:21| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

泪橋あたりで

          
               泪橋あたりで


 「エンクオノカットッウダッ!」
 よく回らない舌で彼は言った。
聞き取れないので「ハアー」と聞き返すと、
「エンコだよ、エンコッ! エ・ン・コの、カトウだ。ワカンネーノカヨー」。
眼だけが、ゆるんだ顔から飛び出ている感じがする。
齢は五十代後半か? 
体がゆれ、いまにも隣の男たちにぶつかりそうだ。


 この店は不思議な場所にある。
潰れて何年もたったパチンコ屋の軒下にあり、八メートルほどの軒下を四軒の店鋪で区分けしてある。
一店鋪の広さは畳2枚ほどしかなく、両脇を緑色のビニールシートで仕切っている。
シートをたためば又ひとつの軒下になる。

小雨まじりの冷たい風がパタパタとビニールの壁をゆらす。
四軒のうち二軒が飲食?店、一軒は雑貨? 一軒?にはテレビだけが一台ぽつんと競馬中継を流し続け、
そこに六〜七人の男たちが小雨に濡れながら(人数が多いと軒下からはずれる)立って酒を飲んでいる。
たよりない裸電球の灯りがひとつ、六十センチほどの陳列ケースの上でゆれている。
ケースの中にはイカ、タコ、赤身が少し、申し訳程度の氷に載っている。
だが、ツマミを頼む人はいない。
ツマミを食べたり、酔っていくうれしさを楽しむよりも、速く酔いたい、速くグラグラしたい! 速く、速く、速くーっ!というような飲み方なのだ。
 

 エンコのカトウ氏が私に酒くさい顔を近づけ、
「エ・ン・コ、ワカルカ? エンコ!」
どうにも新参者が気になるらしい。 
「エンコって浅草のことでしたっけ? 昔 高倉 健が映画の中で言っていたと思います」と言うと、
「そうだよ。健さんだよ、わかってんじゃねえか!」
なぜか、そこでエンコ氏が胸をはったように見えた。

「なぜ浅草のことをエンコって言うんですかね?」と尋ねると、「そりゃ昔っからよ!」。 
「ところで、モクはないのか? モクは!」
エンコ氏もその由来を知らないらしくその事にはふれない。
タバコがないことを告げると、「ちぇっ! モクもねえのかよー」と言いながら、何枚も重ね着した上着の二番めの上着?(この付近では多くの人が防寒のため何枚もかさね着姿を見かける)吸いかけのタバコを出して火をつけた。

 
DSC_3887.jpg

                                   
 テレビでイラク派兵が国会を通過したことを告げている。

 「行きゃいいんだよ! タダで給料もらってんだから」
「いや、行くなら行くで、ごまかさないで。憲法を作ってチャンとやらなきゃ、隊員がかわいそう?」と私。          
「何が憲法だ! なにがかわいそうだ! この甘チャンが!  自衛隊は軍隊だろ、軍隊は戦争が仕事じゃねえか! 他になにすんだよ! 死にゃいいんだよ、死にゃ!」
してやったりの顔である 。
 
「行かねえんなら、おれ達が行くよ! おれ達、毎日命はってんだからヨー。明日からでも行ってやらアー。この頃仕事もねえしな、イラク行ってパアーッとしてえよ。パアーッとよ! なあケンちゃん」
と、エンコ氏はとなりの六十すぎの男に相づちを求めた。       
 ケンちゃんは、酔っぱらて転んだのか、顔中カサブタやスリ傷だらけで腫れあがった痛々しい顔にチカラを入れ、
「そうだよナー、オリャー、土方だけど大工仕事も出来るしナー、カトちゃんも水関係の手許やってたしネー。クラちゃんもイイじゃない。電気関係の手許やったし、運転もやるよ」。

「そういえば、この頃クラちゃん見ないネ。寝ぐら変えたのかナー」
ちょっと淋しげにエンコ氏。

この後もアイツがイイ。コイツはだめだ。
はては手配師をオレがやってイラク人を振り分ける、とエンコ氏らは盛り上がり、
カトちゃん、ケンちゃん、テッちゃんの泪橋の夜は更けてゆくのだった。  

 
 
 

 


   

 



 


 
   
posted by 川上哲也 at 02:37| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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