2010年12月10日

ハード?な方々

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しあわせも不幸せも突然にやってくる。

いまは午後四時、奈良からはずれた町の居酒屋はまだ開店してないようだ。
しかたなくガード下にある横に長い立ち飲み屋に入る。

先客はひとり。
60代の女性が奥の折りたたみ椅子に座って飲んでいた。
かなり酒がすすんでいるようで目が赤くうるんでいる。

十年まえに旦那が膵臓がんで、告知三週間で私を残して死んだ。
それ以来さみしくて、さみしくてと酒と涙で赤くなった目を私に向ける。

動物でも飼ったら?
『アパートの大家がうるさくて猫だってダメて言うんだ』
小鳥もいけないの?
『あの大家じゃあだめにきまっている、ああさみしい…』

そのあとも、十年まえに旦那が膵臓がんで死んだ。三週間で私を残して死んだ。ああさみしい。
なにかといへば、『三週間で死んだ、ああさみしい』
同じ言葉のくりかえし。

『お兄さん話を聞いてくれてありがとう。
ねえ、このお兄さんやさしいひとだよ、わたしの話を聞いても怒らないもの。
怒るひといるんだよー。大声でうるさい!なんて』
客のいない店内で、誰にともなくひとり言のようにちょっと大きな声でつぶやいた。

しかしキツいなあ、このままじゃひどい酔い方しそうだ。
さみしがりの女性がトイレに行き、やっと一息ついた気がした。

六十代のふたり組が私のとなりに陣取った。
二人の話をなんとなしに聞いていた。
二人は幼なじみのようだ。恰幅のいい商店主風がやせた教員風に交通事故の手続きのことを真剣に聞いていた。

商店主風が私の大きめのカメラに気づいて、ふたり組と私は話をしはじめた。
カメラの話から平凡社の『太陽』の話題になり、『平凡社で出版している白川なんとか?文字の先生がいましたね?』なにげない私の一言に、白川氏のことを教員風が熱く語りだした。
『私も書をすこしやってます、毎年中国へ文字の勉強に行っています。文字はおもしろいですよ』
商店主風が『このひとは書ではたいへんな先生なんだよ』と私に耳打ちした。

書の先生たちと話がはずんでいると、さみしがりのおばさんが隣のビルのトイレ(女性用はきれいなビル)から帰って来て、話相手がいないのか
『私、二回自殺未遂したんだよ、死ねなかったのよねー、おかみさん』と大きな声で同意を求めた。
すると、書の先生が強い口調で『自分の命をもっと大切にしなきゃいかん』と一喝。
『だってさみしいんだもん、旦那が膵臓がんで私をおいて三週間で死んだんだ、ああさみしい』
書の先生は『私だっていま食道に癌が転移したが死にたいとは思わない。あんたもしっかり生きなさい、
さみしいのはあんたばっかりじゃない』とやさしく諭した。
『今日の酒はそれくらいにしてもう帰りなさい』
さみしがりさんは『そうだよねもう飲めないからね、先生また会ってね、きっとだよ、本当だよ』の言葉を残し、ヨロヨロと店を出ていった。

『この人は三回目をやるかも』。
そのよわよわしい後ろ姿を見送りながらながらそんな思いをもった。

そのあと、また六十代の人が入って来た。
店のおかみさんが『手術うまくいったんだってね〜』と声をかける。
のどを切開手術したというその人は『固形物はまだ口にできないが、酒ならよいと先生の許しが出たんだ』と声にならないかすれた声で、うれしそうに酒を注文した。
店の全員が『ほんとー』の声をあわせた。
手術後はじめて酒を口にするそうだ。

『私に最初の一杯をおごらせてください』と、なぜかうれしくなった私が強引に酒をつがせてもらった。

老人の首には横一文字に十五センチほどの絆創膏が貼ってあり、大きな手術だったことが伺える。
『いただきます』
老人は私に黙礼して、酒をゆっくりとくちびるにつけた。

大きな傷跡を触らせてもらうと、絆創膏の上からでも縫合の感触が指先に感じられ、エロチックな感覚だった。


『これ食べてみろ〜』
煮こごりとともに顔の筋肉が右にひっぱられた老人がミッキマウスのカーテンから飛び出してきた。
別の店だとばかり思っていた。となりの店との壁はカーテンをひいただけだった。
ひとつの店舗をカーテンで仕切り、二店舗に。
その老人はほかの客から先生と呼ばれているらしい。
病気の話で盛り上がる私たちの仲間入りがしたかったようだ。
にこごりは塩っぽいしょうゆだけの味で、あまり煮こごりが好きではない事もあり残ってしまった。
この店のつまみ全般まずかった。ひさしぶりに多くのつまみを残した。

二度の自殺未遂に癌の再発、脳の血管の病気、のどの切開手術。
客の数が七〜八人という少人数だったわりには、たいへんな病気を体験した人たちが集まる密度?の濃い店だ。
なのに、明るいひとが多かった。

ひとりをのぞいては。


軽く飲もうと入った立ち飲み店でたいへんな経験をした人たちに会った。

しあわせも不幸せも突然にやってくる。

ふ〜ん


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posted by 川上哲也 at 19:25| Comment(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

三つ巴    (南千住)

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ひき戸を開けると目の前に、けわしい顔をした中年外国人風の、女が立っていた。


かたくて多すぎる髪を、むりやり強いパーマ液でねじ伏せたような髪型。
やせて勘のつよそうな顔に、濃い化粧、唇からはみでた真っ赤な口紅。
なにかスゴイもの、威圧感さえ感じさせるオバサンが、
「お前はアッチ、コッチやるから注文ワスレンダヨー!マッタクー 、たいした仕事もしないくせにヨー!」
外国人風の女が七十すぎの老婆を口汚くののしっていた。老婆はうつむき、ジッとたえていた。
ひどい店にきたものだ。

不愉快になり店を出ようとすると、「オダヤカニ〜 オダヤカニネ〜 まだはじまったばっかりだヨー」
若い男の声が奥の調理場から聞こえてきた。
コの字型のほそ長いカウンターの廻りには四〜五人ほどの老人がひっそりと座っていた。
メニューを見ると三十品ほどあり、値段も百五十円から五百円くらいまで、横の客が食べていたマグロ刺し(500円)は悪くない。
せっかく来たので一杯だけ飲もうと、マグロ刺しとオニオンスライス(百五十円)を注文。

嵐(外国人風女)が奥へ、店内はトゲトゲした空気が去りやわらかい時間が訪れた。
嵐(外国人風女)さえ来なければこの店は悪くないかもしれない。
ひっそりと飲んでいた老人たちも、子雀のように小声をだしはじめ、私も酎ハイを飲み気持ちがスーと落ちついた。
焼酎もキッコー宮で私の好きな酒だったこともあり、もう少し、と三杯目を注文する頃にはカウンターの席も埋まって、酒場独特の雰囲気が漂いはじめてイイ感じになってきた。

しかしこの店は老人が多い、それも一人客ばっかりだ。
すこし酔いがまわりウットリしていると、調理場で声がする。
料理のことでモメているらしい。
またあの老婆が間違えたのだろうか?。

こんどは店主らしい男(七十代)と、さきほどのオダヤカニ〜の若い男らしい。

料理の手順の事での言い合い、だんだん声が荒くなってきて、いまにも掴みかからんばかりである。
「ヤメナヨー!」あの外国人風女が大声で叫んだ。
言い争いはおさまった、.......と思ったら「¥〜ー=&%$#」(よく聞き取れない)店主が収まらないらしい。
「&%$&&#$$!」と若い男がきりかえした。
「バカヤロー!$¥&#$¥%*+$$!」「コノー糞親父が〜、%#!&W&&%」と外国人風女が一段と大声で興奮。
収拾がつかなくなってしまった。


 調理場で若い板前が怒られたり、言い合う姿は何度か目にした、が、こんなに大声で客を無視した、言い争いは初めてで、外国人風女のボキャブラリーの凄さがいっそう荒々しくみせている。
しばらく言い争っていた外国人風女が「イイヨ、イイヨ、店ナンカ閉メテシマウカラナ!」言ったと思うとな、なんと店の電気を消してしまった。
真暗い店内で私は唖然。


お客のことなど考えてない三つ巴戦はしばらく続いた。 
ほかの客は、と見回すと、老人たちは静かにひっそりと酒を口に運んでいた。
「さすが年長者」と思ったがただ元を取りたいだけのようにも見えた。
私もそばに居た老婆に「酎ハイとシロたれ三本」。
店内が暗いせいもあり落ち着いて観ると、三つ巴戦が演劇を観ているような感覚になった。
 
 二十分ほどの演劇は馴染みの客の登場で閉幕となった。


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posted by 川上哲也 at 08:54| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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